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岡山家庭裁判所 昭和40年(家イ)316号 審判

申立人 塩山幸子(仮名)

相手方 塩山京子(仮名)

右法定代理人 塩山弘(仮名)

相手方 田村一郎(仮名)

主文

相手方塩山京子と同田村一郎との間に親子関係が存在しないことを確認する。

理由

申立人は主文同旨の審判を求め、その原因たる事実の要旨として次のように述べた。

申立人は、さきに岡山家庭裁判所に対して、相手方塩山京子との間に親子関係存在確認調停申立をなし、該事件(昭和四〇年(家イ)第一四〇号事件)は、申立の趣旨通りの審判がなされ、その後利害関係人からの異議申立がなく確定した。

ところで申立人は相手方京子の出生当時、相手方一郎とは法律上婚姻中であつたため、前記審判の確定により、相手方京子と相手方一郎との間に父子関係が推定されることとなつた。

しかし、右審判の理由中において認定されているとおり、相手方京子は申立人と申立外塩山弘との間に出生したものであつて、相手方一郎との間に親子関係が存在しないから、本申立に及んだ次第である。

本件調停委員会の調停において、当事者間に主文同旨の合意が成立し、かつ原因たる事実に争がないので、当裁判所は必要事実を調査したところ、申立人塩山幸子、相手方京子法定代理人塩山弘、相手方田村一郎に対する審問の結果、当庁昭和四〇年(家イ)第一四〇号親子関係存在確認申立事件の審判謄本、岡山県和気郡備前町長の認証にかかる相手方田村一郎、および申立人塩山弘の戸籍謄本等を綜合すると、〈1〉申立人幸子は昭和二七年頃、戸籍上の夫である相手方田村一郎と別居したが、その後未だ同人との間に離婚届をしない間に申立外塩山弘(当時法律上の有配偶者)と同棲し、右同棲中昭和三二年一〇月二〇日相手方京子を出産した。〈2〉右京子の出生届につき申立外塩山弘は当時の法律上の妻塩山ミツコとの長女として、その出生届をなした。〈4〉その後昭和三六年一二月二五日申立外塩山弘は妻ミツコと離婚し、申立人幸子は昭和三六年五月一一日に相手方田村一郎と離婚し、昭和三七年三月二八日申立人幸子と申立外塩山弘は正式に婚姻した。〈4〉昭和四〇年七月一二日当庁において、申立人幸子と相手方京子との間に親子関係が存在する旨の審判(当庁昭和四〇年(家イ)第一四〇号事件)がなされ、右審判は利害関係人からの異議申立がなく確定した事実がそれぞれ認められる。

以上認定の事実によると、申立人幸子は前記審判事件において相手方京子との間に親子関係が存在することが確認されたが、相手方京子出生当時、法律上相手方田村一郎と婚姻中であつたから相手方京子は申立人幸子の夫であつた相手方田村一郎との嫡出子としての推定をうけることとなる。

しかし、京子は前掲審判の理由中において認定しているとおり申立外塩山弘と申立人塩山幸子との間に出生したものであり、相手方田村一郎と父子関係が存在しないことは明らかである。

ところで、相手方田村一郎の戸籍謄本によると、未だ戸籍の外観上、同人と相手方京子とは親子としての記載がなされておらず、現段階においては何等利害関係を有しないもののようであるから、右田村一郎に対する本件父子関係不存在確認の審判を求めることは許されないのではないかとの疑義の生ずる余地がないではないが、前掲審判に基き戸籍訂正がなされれば、たとえ一時的(早晩父子関係不存在確認の審判により後日戸籍訂正がなされるであろうから、それまでの間)にもせよ相手方京子と相手方田村一郎とは親子として戸籍に記載されるという、いわば潜在的に重大な利害関係を有するわけであるから、これを事前に右潜在的利害関係人を相手どつて、父子関係不存在確認の審判を求める本件申立は、既に真実の父子関係にないことが前掲審判により明白であるにも拘らず、戸籍訂正の手続上、一応相手方田村一郎の戸籍に入籍した上、改めて右戸籍上の父である相手方田村一郎との間で父子関係不存在確認の審判を経、しかる後更にその審判に基く戸籍訂正をするということは、現在相手方京子が父母の婚姻により法律上嫡出子(準正による)たる身分を取得している関係で同女の戸籍をみだりに訂正加筆することは、同女にとつてもあまり好ましいことではないから前掲母子関係存在確認審判と本件父子関係不存在確認審判とを合体して、一拠に現在の真実の身分関係を登載する戸籍訂正が可能となること等を考慮してこれを許容さるべきであると解するのが相当である。

そうすると、前段認定のとおり、相手方塩山京子と相手方田村一郎とは親子でないことが明らかであるから、家事審判法第二三条第二項を適用して主文のとおり合意に相当する審判をする。

(家事審判官 大西リヨ子)

参考 岡山家裁昭四〇(家イ)一四〇号昭四〇・七・一二審判

申立人 塩山京子(仮名)

右法定代理人 塩山弘(仮名)

相手方 塩山幸子(仮名)

主文

申立人と相手方との間に親子関係が存在することを確認する。

理由

申立人は主文同旨の審判を求め、その原因たる事実の要旨として次のように述べた。申立人の父弘は先妻ミツコと昭和三〇年頃、事実上離婚したが、ミツコの所在が判らなかつたため、その離婚届をしなかつた。

ところが、昭和三一年一一月二八日頃、申立人の父弘は相手方と事実上結婚し、夫婦として同棲生活をはじめ、その間に、昭和三二年一〇月二〇日申立人が出生したが、戸籍上は申立人の父弘と先妻ミツコとの離婚届が未了のため、止むを得ず、先妻ミツコとの間の長女として出生届をしたものであるが、真実は相手方と申立人の父弘との間に生れたものであるから、そのように戸籍の訂正をしたいため、本申立に及んだ次第である。

本件調停委員会の調停において、当事者間に主文同旨の合意が成立し、かつ上記原因たる事実に争がないので当裁判所は必要事実を調査したところ、申立人法定代理人塩山弘、相手方塩山幸子に対する審問の結果、家庭裁判所調査官岡部幸男の調査報告書、和気郡備前町長の認証にかかる塩山弘の戸籍謄本、塩山弘作成名義出生届等を綜合すると、申立人は父塩山弘が先妻ミツコと別居中に相手方との間に懐胎した子であつて、妊娠当時、相手方は弘と相談の上真実を隠して塩山弘の妻塩山ミツコとして妊産婦手帳の交付をうけ、出産後も同女と弘との長女としてその届出をなしたものである事実が認められる。

以上認定の事実によると申立人と相手方は親子であると認められるから、家事審判法第二三条第二項を適用して主文のとおり合意に相当する審判をする。

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